ゆりかごから墓場まで。

 路地裏で子猫に会い、鳴き真似をすれば寄ってくる。おなかをみせながら、僕の指を猫じゃらしにして前足で挟む。子猫のおなかは毛羽立っていて、僕の手の甲は蚊に食われたんだ。


 刺すような陽に身体を冷やし、闇に立て看板をみれば、メッセージが一歩ごとに繰り返されてる。そこにある、強い、強いループ。誰をも責めないあの子の口調に、僕は身を任せていたかった。


 遠い海鳴りが聴こえるのだけはたしかだ。そこにまずは早くたどりつかなくっちゃ。そうでなければ、松だろうが椰子だろうが、待ちかねてきびすを返してしまうのだから。


 お願いだからとなりに並ぼうとしないでくれと、今さら口にすることなんてできないよ。ただ僕は、知らんぷりを決めこむだけ。知らんぷりの、ふりのふり。期待されるのもきらいだし。放っておいてくれないか。


 蚊に食われた手を洗うため、公園の柵を越えると、子猫は追ってきた。僕らの間にはいつも、つかず離れずの距離が横たわってた。そして僕らは手を振って別れた。僕は手の甲をひっかきながら、次の角まで進む。


 海鳴りがやみ、あたり一面、きらきらと光る。ああ、そのときがきたんだね。今まで本当にありがとう。そうか、こうなればすべて感謝だ。なんてことだ。なんだったんだ、昨日までのあれは。


 いつの間にやら短くなったたばこの、フィルター手前の灰が落ちる。いらないよね。もう。