石垣りんさん

『私の前にある鍋とお釜と燃える火と』より「家」から


きんかくし


家にひとつのちいさなきんかくし
その下に匂うものよ
父と義母があんまり仲が良いので
鼻をつまみたくなるのだ
きたなさが身に泌みるのだ
弟ふたりを加えて一家五人
そこにひとつのきんかくし
私はこのごろ
その上にこごむことを恥じるのだ
いやだ、いやだ、この家はいやだ。