旅に出た理由は分かっていないが、西に理想郷を求めた、などの説があ

 深夜にさしかかり、タクシーは下道を飛ばしつづけた。あたしの頭のなかは理想郷を描き、着いたところは由比ケ浜だった。浜辺にタクシーを停め、ドライバーと2人でぐっすりと眠ってしまったようだ。
 北へ行くと彼は言ったのに、ということにあたしが気づいたのは目が覚めてからで、車から出ると、朝日が昇るのを2人並んで見つめた。北へ行くと言ったのに、とずっと思ったけれど、あたしは北へ行きたかったわけでもなかったから問いただすのもおかしい。
 空腹を感じ、由比ケ浜通りのブックカフェに入った。店内には絵本とその原画があふれ、なつかしさを感じる曲が次々にかかった。その後、チーズケーキが食べたいとあたしは提案し、北鎌倉に移動したが、店は閉まっていた。タクシードライバーはあたしを駆り立てるような魅惑的な言葉を耳元で囁いた。再びタクシーに乗り込んだ。
 東京に戻っているのがわかった。あたしは淋しかった。渋谷の駅が見えた。センター街の喫茶店で3時間、あたしたちは一言も言葉を交わさなかった。また夜がやってきて、また空腹を感じたから、大塚でラーメンを食べた。ハリガネのように固く、スープのおいしい博多ラーメンだった。あたしは1人で歌を歌いたくなったので、タクシードライバーには周囲に無数にある風俗店に行くことをすすめてみた。彼はあたしの話を聞いていないようだったし、あたしは彼がどうするのかを見届けずに公園の遊具の影に横になって歌った。
 朝になってタクシーに戻ると、ドライバーは眠っていた。窓をたたくと目を覚ました。彼はどんどん無口になっていくようにみえたが、神保町に向かう、とだけ口にした。でも、神保町に用事があるわけでもなく、そのまま神奈川方面へ移動した。川崎の工場地帯のど真ん中にある、哀しいオルガン音楽の流れる遊園地に行った。あたしは興奮してティーカップをぶんぶん回した。彼も興奮してメリーゴーランドに立ち乗り。ところが突然、月島の倉庫に荷物を取りに行くと言う。タクシードライバーの笑顔は、今度いつ見られるのか、想像すらできない。だって、あたしはこの人のことをなんにもしらない。そして、あたしはちっとも遠くへ行けていないではないか。


ジプシー
ロマ
歴史

彼等は西暦1000年頃に、インドのパンジャブ地方から放浪の旅に出て、北部アフリカ、ヨーロッパなどへとたどり着いた。旅に出た理由は分かっていないが、西に理想郷を求めた、などの説がある。ヨーロッパにおいてはユダヤ人と並んで少数民族として迫害や偏見を受ける事となる。ただしユダヤ人ほどこの事実は強調されていない。


職業

移動型の人々の職業は、伝統的に鍛冶屋、金属加工、工芸品、旅芸人、占い師、薬草販売等だった。


ファンファーレ・チョカリーア Fanfare Ciocărlia - ルーマニア北東出身の世界最速を誇るジプシー・ブラスバンド


ジプシー・ブラス