タクシードライバー

 去年までは郵便局員だったタクシードライバー。ジプシーになるのでどっかへやって頂戴と伝えたら、そんなら今の季節はそろそろ北へ向かったほうがいいんじゃないかと思いやすとタクシードライバーは車を走らせる。今までいろんなタクシードライバーに出会ったわ。カーナビが自慢の男、乗客の職業をあてるのが得意な男(あなたの職業だけはわからないとあたしはいわれたけど)、20歳くらい年上の女性と結婚して長く円満でいるコツを伝授する男。だけどあんたはちょっとちがうわなんだかよくわかんないけど。
 重い身体を引きずりながらも昨夜タムくんアニメの映画を観たのよ、アレで胸が重くなったり躍ったりしない不感症には近寄りたくないわ、街を離れたら当分映画も観なくなっちゃうかもしれないけどねとあたしがいったら、タクシードライバーは胸が重くなったり躍ったりするようなことはいくらだってあるし、オレは静かに暮らしたいなんていう。
 確かにそうだわあたしは自分の胸に振り回されて、深夜に覚醒して、明け方にうつらうつらして、昼間にぼーっとして、夕方に突然眠ってしまって、それで今夜飛び出してきたんだったわ。そういったら、ほうらごらんよなんていう。ちょうどよかったオレはきみの先輩にあたるなぜなら家をもたない個人タクシードライバーだから。ハンドルの向くまま走ればいいし信号を守る必要だってない。ほんと、ちょうどよかったみたいねじゃあまずはどこへ向かっているのとたずねたら、北だろ北としかいってくれない。
 あたしは逃げてきたわけじゃないのよかんちがいしないでねそれにあなたに特別な興味があるわけじゃないしといってみる。するとタクシードライバー、親指で鼻先をちょっと弾いて、へん、なにいってやがるこちらこそねがいさげだこちとらそうべらべらしゃべりつづけられるのもそろそろ辛抱ならねえところだったんだからよとまっすぐ前をみていう。もっとなんかいってやろうとあたしはおもったけど言葉がでてこなかった。そのうちどんどん首のうしろとおなかが重くなってきてどうにもしようがなくなった。まだ宵の口だし。


つづく、かどうかは誰にもわからない。つづきはあなたがつくってください。