浮いてみた。

 8月の第2週目には、冨子と奥乃と海に行った。冨子は僕の勧めで九十九里を希望していたが、奥乃が神奈川在住のため、湘南方面へ行くことにした。だが、芋洗い状態に巻き込まれるのは、ただでさえ人混みの嫌いな、祭以外の人混みは許すまじと考えている僕にとっては地獄の釜に投げ込まれるような苦しみなのである。いや、これはかなり大仰な表現だが。
 結局、森戸海岸へ。ここは、「遠浅で波穏やかなビーチで、沖合いの名島や灯台を望む景観が素晴らしい。葉山海岸花火大会も行われるので、シーズン中の賑わいは葉山町でも一番。また名島沖に沈む夕日が美しさでも知られる。」との￿￿『全国ビーチ情報2005』というサイトの説明通りであった。逗子に着いた僕と冨子は奥乃を待つ間に食料や飲み物を調達し、その後、奥乃と合流してバスに乗る。バス停からビーチは目と鼻の先で、まず、人出が多すぎないことに満足する。
 迷った挙げ句におばちゃんの印象とパラソルのデザインから海の家を選び、早速、海へ。冨子は100円ショップの浮き輪を持参してきており、「浮いてみて! 浮いてみて!」と繰り返す。それを聞いている奥乃が、「浮いてほしいらしいよ」などと口にする。僕らは交互に浮いてみる。冨子いわく、「別世界を独り占め」とかなんとか。そして、めいめいが好き勝手に泳いでみたり、沖の方へ近づいてみたり、くらげに幾度も刺されては水で洗ったり、簡単な食事やつまみを口にしたりしていた。浮き輪に彼女らを掴まらせて引くことで、向こうに見えるバナナボートを模したりもしてみた。
 陽が傾きはじめ、僕は二人に砂の中に埋められて、心地よい温かさを味わっていた。それを二人はデジカメで撮影しながら、「コワイコワイ」と言っている。ひとけがさらに少なくなった海にも何度かトライしたが、時間制限となり、シャワーを浴びて帰る。帰りの電車では、二人は禁煙に関する僕へのアドバイスとして、「煙草はキャバ嬢。貢いでも無駄なだけ。本命は別にいるはず」。渋谷で豚カツを喰らい、お笑いのライブを観るという奥乃は漫画喫茶へと仮眠に向かった。