『午後の足音が僕にしたこと』薄井ゆうじ、読了後の覚え書きも。

午後の足音が僕にしたこと (光文社文庫)

午後の足音が僕にしたこと (光文社文庫)

薄井ゆうじは二冊目ですね。宮沢賢治+(村上春樹−エロ)×ファンタジーテイスト満載÷2くらいの感じの人でしょうか。この場合に含まれない「エロ」つのは、内容ではなく、文体というか、行間から匂い立つエロす(内容的なエロはあるんですよ)。あたしのブログも、まったくエロネタでない回への感想としてエロいとかいわれたことがあり、これはうれしいんですね。それがなぜかは、またの機会に。村上春樹なのは、ときに長いタイトルのテイストやジョギング、猫が出てくるところも含め、涼しくて静かな風が吹いている感じが。それが何かを映し出す感じが。


『午後の足音が僕にしたこと』のラスト


『僕は鎖を切ることができる』
「『どんな男性が好きなのかくらい、自分で考えなさい。……わかりやすい男。自分に自信がある男。女性に親切な男』『そういうひとが好みなんですか』『嫌いなタイプを言ったの。わかりにくくて自身がなくて、女の心に鈍感な男が好き』」これのラストも秀逸。つか好み。


『夜が僕に話しかけても』
「カモメの声は低く優しく、まるで夜そのものが僕に話しかけているみたいだった。」


『僕のことに気がついただろうか』
ささやかだけれどかけがえのないなにかがひとをぼくをつなぎとめる、そう感じさせる中盤が好きです。


『水曜日の雨は月曜日の猫』
「大きく、だめ、と叫んだとき、アーモンドの形がわずかに偏平になって、ピーナッツを二つに割って目の上に置いたみたいな形になった。だめ。ピーナッツが弾けて瞼を閉じると、彼女は僕にしがみついた。」


『きみにスプレーしたわけじゃないのに』
彼女がテレビを持ち込んだら彼は外に出てしまった。帰宅した後の会話の最後に、「『きみが嫌いなわけじゃないんだ』」


『たぶん僕たちは地底湖に向かっている』
彼女に不満があるわけじゃないし、今日は叔父さんの家に行きたくないだけだと言う彼は、結婚したその足で地底湖へ行こうと彼女を誘う。


『トマト爆弾が落ちるまで』
これも共感度の高い、すてきなストーリーです。なんとなくすれちがうこと、そしてふたたびなんとなくであうこと。もちろんこころがです。


『霧の夜僕はコンサートに行った』
「僕は、知らない男の役を演じきってみるつもりだった。それが、S席にすわった罰なのだと思う。」


『僕が見知らぬ猫にできること』
大佛次郎の随筆に出てくる猫」


『バニラの香りがしていた』
「『昔あるところに、ギクさんとシャクさんがいたんだ。(中略)二人は仲が悪かったわけじゃない。それなのに別々のところへ行って、別々の仕事をしていたんだ。』」
リトル・ピーチ、ライスボール、デビルアイランド、デビル退治、キビ・クッキー


『もっと上手に唄える』
「僕は黙っていた。そして、これがバリ島なのだ、と思った。何度来ても、この島の呪術的な部分に何らかのかたちで触れてしまう。」謎めいたことばかり口にする老人。


ペンシルバニアの遠い静かな火事』
「(前略)毒蛇を食べるために走ってきた女の子なんて変な感じだな、と思った。『何を笑っているの』『ビールの飲み方が素敵だな、と思ってね。』」


エルベ川から聞こえてくる音』
「もしかしたら彼は、無意識に嘘をつかないではいられないという性格の持ち主なのではないだろうか。本当のことを喋るのが苦痛な人間──理由はないが僕はそう思った。」


『六月の雨があたしにしたこと』
『午後の足音が僕にしたこと』とつながっているのですね。ラストは美しい気持ちになって鳥肌が立ちます。

あとがき
平凡パンチ夕刊フジにイラストを描いていた。銀座の喫茶店『らんぶる』。僕が、きみと僕のために語りかけるあとがき。