『明日泣く』色川武大、読了。

明日泣く

明日泣く

●『岩見重太郎くん』
人間てコワイす。
「巨漢すぎず、といって小体(こてい)ではなく、若からず、老けてもいず、特に阿呆でもなく、しかしけっして利口ではない。だからキザなところがなく、適当にはずれていて憎めない。(中略)いわゆるヒューマニストで、よくもわるくも凡俗になかなか染まらない。」
「どこで寝ようと糞たれようと心のままという自由人のありがたさ、」
「幸せなら手を叩け。不幸なら地団駄踏め。態度をはっきりさせないで我慢ばかりしているから、娘を出せのとなめられるのだ。」
●『名無しの恋兵衛』
誰か恋兵衛をっ!!
「誠の男は他人の言葉などにくよくよするものではない。毅然としていろ。いいか、恋兵衛、誰がなんといおうと毅然として生きていくのだ──。」
●『桃色木馬』
恋兵衛の名乗り(決まり文句)、かっくいいす。
●『今晩わ幽霊です』
恋兵衛よ。。
「『死んで花実が咲くものかよ。そりゃ君のような金も力もある色男のいい草じゃない』」
「『まあ、詩人。あたくし、一度詩人の方とお話してみたかったんですの』『(前略)俺には月がある。星があり、風があり、万物の美を感得することができる。これこのとおり、淋しくなると月を見る』」
●『明日泣く』
破滅型の女には弱いす。
「『珍しい曲だね。“アイル・クライ・トゥモロウ”か』『ええ、誰もあまり演らないけど、あたし、好きな曲よ』『ラヴソングじゃないね。アルコール中毒の女の唄だろ』」
伴奏音楽者(カクテルピアニスト) “ビギン・ザ・ビギン”のような難曲
「どお──? とピアノの音で私に挑戦しているように思えた。好き放題やっても、私は泣きは見ないわよ。」
キッコ=定岡菊子は薬をやって、愛人である腕力のないピアニストは怒ると煙草の火を肌に押しつけるらしい。
「『自分勝手に生きて、いつか泣きを見るだろう、キッコが泣くところを見てみたい、その気持と、俺だってキッコのタイプなんだから、泣きを見るとはかぎらない、そのままずっと生きていってほしい、そういう気持とが混ざり合っているんだな。それでなんか、目が離せないんだ』」
刃物騒動
「私はなんとなく、どこかの国で、孤独に泣いているキッコを思い描いた。そう思いたかったのかもしれないが。」
●『おっちょこちょい』
タイミングって、なんなんでしょ。
「百年の恋のような気もするし、老いて落ち目になった二人旅という気もする。」
●『男の花道』
芹沢博文将棋九段。
「もうあれは、個人能力だけが頼りで、野の獣のように自然で原則的な生き方でもあり、同時に世間の道徳など踏みこえた、ロマンチシズムの極みのような、最高の生き方なのだ。だから私は、今でも、理想の生き方は、ばくち打ち。それが持続できなかった自分を恥じている。」
「将棋の実力は紙一重、自分のすべてを投入して戦うのだ。体力、人格、気質、運、その他あらゆるもの。どこかが弱ければそこを突かれる。」
「『ばかだな、お前。──酒、女、ばくち、三つとも好きなら、八段にはなれる』芹さんは目を細めていう。大手合「『(前略)碁でも、将棋でもね、男と男があらん限りの力を出し合ってぶつかるんだ。美しいよ。残酷だし、豪壮だよ。人生なんてもっと甘い。あんな絵は他じゃ見られないよ』」
「『目茶苦茶いっても、優しいんだ』『俺は鼻つまみだって、自分でいってたわよ』『本当は、誰も憎んじゃいない。(中略)皆、芹さんを好きなんだよ。ただ、始末が悪いだけなんだ』『始末が悪いのって、困るわね』『しかし、人間は皆、始末が悪い。誰だって始末よくなんか生きられない』」
「(芹沢流チンチロリンで)ハコテンになってしまうのである。」
「『(前略)こりゃァ凄い、キンタマに帆がかかってる。こいつァ名人になるね』(中略)『百年に一人って奴なんだよなァ』」
娘の結婚式までの禁酒「『わからないのか。娘が一人前になるまで、生きているという約束なんだよ』」結婚式の途中からワインを呑み、荒れて以来、高価なワイン、シャブリ専門。
「『競輪場に来て、競輪だけしてるの、もったいないねえ。我々はどうせ余命がすくないンだから、レース(競輪)の合間にチンチロリン、どうです』」日にワイン七、八本。肝心のところで意識朦朧
「本業の将棋をさしていたって、早く競輪場に生きたい一心で、『早くさせ、させば貴方の勝ちになるゥ』都々逸を唄ったりする。」
「『観念的に、人は自殺できるものかなァ』(中略)『天才なんだ。天才としてしか生きられない人なのさ』(中略)『生き急いでいる。その思い一色じゃないが、心の半分くらいを、それが占めている』」
「『男は結局、自分の条理で生きてるからなァ。世間の常識や道徳が、それを説得できるとは思えんよ』(中略)『あたしのために生きて頂戴、それがどのくらい通じるか』」
「『──なかなか死ねないもんだねェ』(中略)『だが、俺はきっと、長生きだよ。恥をしのんで、生きてるよりしかたがない。人生って、そんなもんだな』」
芹さんが、老後は男だけで集まって、それぞれの部屋がある中央の部屋に淋しくなったらみんなが出てきてマージャンやったり、という、夢を語る。


続きは明日以降に。芹さんも色川武大さんも、とても好きです。
写真は、取材記事はああだったけど、家庭的なところもあるのよアピール。決して旨いとは云いかねますが。。