恋愛物語 第2回

 昨夜遅くまで仕事をしていて、熱帯気候のロフトで大汗をかきながらも、僕は起きあがることができなかった。ようやく昼前に重い身体を引きずりながら、なんとか起きだした。
 仕事にかかわる雑多で面倒で気が重い作業を次々とこなし、腹ごしらえをして郵便局へ。ふみの日切手を購入し、冊子を小包で出す。ぐちゃぐちゃの頭のまま煙草を自販機で買い、家に戻って黙々と原稿を作成したり、メールの返事を書いたりする。そしてふと、今月もまたしても家賃を月内に払えない状況、時間帯であることに気づき、とりあえず夕方の5時まで作業を続け、シャワーを浴び、再び5時半に出ることにする。BGMはWorld Standard￿『音楽列車』。カミュに借りてケースを割ったが気に入ったこともあり、購入予定。

音楽列車

音楽列車

 月末最後の平日6時前では、銀行など混んでいるのは至極当然のこと。僕は、ひとつひとつ用事を片づけることに専念するのだ。そして、家の電話から携帯に転送されてきた留守番電話のメッセージに対する折り返しの電話を、携帯電話の充電が切れそうだったために、公衆電話からかけることにする。駅前に並ぶ公衆電話の裏には住人がおり、ぶつぶつと文句を口にしているのが非常に気にはなるが、交渉を進める。遠距離電話でテレフォンカードがあっという間に2枚分なくなりそうなほどであった。
 吉祥寺へ向かう。VILLAGE VANGUARDの品揃えに弱い僕は、いつまでも店を離れられない。そこでうわさの本のページをめくると、「本当にそれはほしいものなのか」とかなんとか書かれており、さらに悩む。結局、ジョルジュ・バタイユがオーシュ卿という匿名で1928年に地下出版された小説『〈初稿〉眼球譚』の文庫
眼球譚(初稿) (河出文庫)

眼球譚(初稿) (河出文庫)

と、うめぼしピーナッツと豆腐チップスを購入。自転車で表れた冨子に、薩摩芋チップスを渡し、駅ビルで帽子を買うのにつきあわせ、靴下を買うのにつきあったついでに僕も1足購入。そして、僕の提案で、くぐつ草でカレーを食べることにする。
 くぐつ草はいつもよりも明るめな気がして、まずは冨子の仕事での非常に貴重な体験を聞く。あり得べからざる結婚式の話。冨子の友人の父に取材したい話。そして、僕の格闘、屈辱、互いの安易な反省と葛藤について。
 僕は帰り際に、フリーのCD-Rをもらってきた。それを手にしながら、これは良いアイディアだと盛り上がる。印刷の手間が省け、写真の画像を調節しすぎずに載せることもできる。では、第1号を12月(冬)号として、タイトルは『同人誌』もしくは『射手座同盟』もしくは『バリナイト』とし、テーマを「恋愛物語」もしくは「ロマンティシズム」などとしてはどうか、と。参加希望者からは500円を徴収し、8月に打ち合わせ、9月末に原稿締切、10月に編集作業、11月から配布というのはどうかと。
 「あぁ、やりたいことがいっぱいだ」「働いてる場合じゃない」と気ばかりが大きく夜空に拡散していった。
 今夜は冨子とは、駅前で別れた。彼女は自転車に跨った。僕はいつものように、冨子の後ろ姿をそっと見送った。(つづく)